奏刃秘抄
序章 ある日の忍術学園。学園内は不穏な空気に包まれていた。 妙な動きを見せる敵城に 偵察に出かけた文次郎・留三郎が戻らず、 遠方へ実習に赴いた四年生も行方不明になったというのだ。 そこへ、息も絶え絶えのタカ丸が戻ってくる――。 第一章 「やつらは幻術遣いを雇い、四年生を操って忍術学園を襲わせる気です!」 幻術遣いとの邂逅、文次郎たちの死の宣告、滝夜叉丸に託された伝言。 タカ丸の言葉に騒然とする教師陣。学園長は六年生を収集した。 久々知は、警備に焦るタカ丸を休めると 三郎の協力を得て 学園内に事を知らせて回った。 しかしその途中、生物委員の姿が見えないことに気づく。 誰に聞いても「見ていない」という返事ばかりで困り果てた二人の前に、生物委員の虎若が現れる…。 その少し前、生物委員は裏々山で虫たちの餌を集めていた。 同じ委員会である滝夜叉丸の身を案じつつ、気晴らしもかねて手伝いに参加していた金吾。 竹谷に励まされ、そろそろ戻ろうかとしたとき、当の滝夜叉丸が現れる。 思わず詰め寄る金吾。何も答えない滝夜叉丸。竹谷は何かを感じて叫んだ。 「離れろ!金吾!!」 思わず立ち止まった瞬間、鋭い刃が金吾の肩をかすめた…。 滝夜叉丸は何かに操られているようだった。 竹谷と孫兵は後輩たちを逃がし、何とかその場で食い止めようと奮戦。 何が何だか分からなくなり涙が止まらない金吾。その頭を、大きな手が撫でた。 体育委員長、七松小平太。竹谷と孫兵を寸でのところで助けると、滝夜叉丸に向かって微笑んだ。 「待たせてごめんね、滝」 滝夜叉丸の頬を一筋の涙が濡らした。 第二章 竹谷たちを学園に帰し、改めて滝夜叉丸と対峙した小平太。 「不自然に強い」滝夜叉丸に、彼が「操られているために限界以上の力を出している」ことを悟る。 このままでは、滝の体が持たない――。何とか動きを止めようとするもかなわず、 わずかに意識を取り戻した滝夜叉丸は自らを殺してくれと懇願。 小平太は決意を固め、静かに語った。 「私はお前を助けてやることはできない。お前がお前を救う手助けしかできない。 だからお前にだけは絶対に諦めてほしくないんだ」と。 「お前は必ずできる。私は信じている。だからお前も自分を信じて、お前を信じる私を信じてくれ。」 滝夜叉丸もそれに答え、絶対に諦めないと返す。小平太は微笑み、両手を広げた。 「ならば私もすべてを賭けよう――」 小平太の作戦はこうだった。 滝夜叉丸が自分の懐に飛び込むその瞬間、手刀で刀を落とし全身を使って動きを封じる。 身体に極力負担を与えないよう動きを封じるには、それしか手がなかった。 でももし失敗したら…恐れる滝夜叉丸に小平太は優しく微笑んだ。 「――おいで、滝」 滝夜叉丸の目から涙があふれ、彼に縋るように突進していった。 作戦は成功し、二人は固く抱き合った。 生きたい、ここに居たい、あなたと居たい。願いを口にする滝夜叉丸。 次第に抵抗がおさまり、身体の感覚が戻ってきた。 でもまだ上手く動かせないから離さないでという滝夜叉丸に、「離れたくない?」とからかう小平太。 ようやく笑顔が戻ってきた二人を、一つの銃弾が引き裂いた。 肩を撃たれ、振り返った小平太は丘の上に立つ三木ヱ門を見る。 三木ヱ門は無表情で石火矢を構え、放った弾が大きくバウンドして小平太の腹に直撃した! 吹っ飛ばされ、崖下に落ちていく小平太。 「――七松先輩!!」 滝夜叉丸は今度こそ幻術から解き放たれ、両手をかかげて崖から飛んだ。 そこに駆けつけた久々知と三郎。間一髪で小平太たちを助けることに成功、学園に戻った。 第三章 何とか一命を取り留めた小平太は医務室で治療を受け、眠っていた。 満身創痍の小平太を見て動揺し、どういうことかと滝夜叉丸につかみかかる三之助。 その時、鋭い一喝が医務室にこだました。 意識がないはずなのに…。それでも小平太は滝夜叉丸を、みんなを守ろうとしていた。 伊作は微笑み、滝夜叉丸に小平太からの伝言を語った。三木ヱ門を助けてあげて…。 包帯だらけの腕を額に押し当て、滝夜叉丸は誓う。――必ず! 小平太との約束を、みんなの思いを胸に森を走る滝夜叉丸。 ふと隣に気配を感じた。慣れた気配だった。 ――来たか、三木ヱ門。そうだ私について来い、戦える場所まで! その頃、医務室では早くも小平太が目を覚ましていた。 滝夜叉丸が伝言に従ったことを聞き、何かを考えるような眼をするが、 絶対安静、と伊作に釘を刺される。 森で三木ヱ門と対峙した滝夜叉丸はまず説得を試みるが、 彼が自分よりも深く幻術にかかっていることを思い知らされる。 「殺してやる…潮江先輩の…仇…!」 その目は、暗い怒りと深い悲しみに満ちていた。 一方、小用を済ませて医務室に戻ってきた伊作は、小平太が滝夜叉丸を追ったことを知る。 「七松先輩のことは 竹谷先輩が追って行きました。本当に、馬鹿な人たち…」 孫兵の言葉に、伊作は歯がゆい思いで壁を殴った。 第四章 同じ頃、森の中をふらふらと進む二人組がいた。一人は腕を、一人は足を負傷している。 腹減った。さっき食っただろ。虫だの鼠だのはもういいよ、おばちゃんのチャーハン食いたい。 言いあいつつ、支えあうように歩く二人は、うずくまる小平太と竹谷の姿を見つける。 こんなところで何やってんだあ? その言葉に、小平太は はっと顔を上げた。 「お、お前たちこそ。何やってんだ…」 滝夜叉丸は窮地に立たされていた。もうろくに腕も動かせない。 (やはり私では届かないのか。お前の先輩を想う気持ち…私は誰よりも分かってやれるのに!) 三木ヱ門は、頭痛がするのか頭を抱えながらも こちらを睨みつけ何やら呟いている。 そして石火矢をまっすぐに構え、滝夜叉丸に向かって――…。 あたりに轟音が鳴り響いた。 滝夜叉丸は目を見開いた。弾は大きく外れていた。いや、正確には「外して」いた。 石火矢を手放した三木ヱ門はうずくまり、一層頭を抱えて苦しんだ。 「わ、分かって、います。先輩…。でも、あれは――滝夜叉丸、では…」 滝夜叉丸は理解した。三木ヱ門には、文次郎の幻聴が聞こえるのだろう。 (先輩が仇を討てというのか。お前が苦しむと分かっていて。そんな人ではないだろう?) 最後の力を振り絞って滝夜叉丸は一喝し、三木ヱ門に殴りかかった。 「いい加減、目を覚ませ――ばかたれ!!」 最後の言葉が懐かしい声と重なった、気がした。 三木ヱ門を吹っ飛ばし 力尽きて崩れ落ちる滝夜叉丸の体を、小平太の腕が抱きとめた。 「よく頑張ったね…お疲れさま、滝」 その優しい笑顔を見て、滝夜叉丸も微笑み意識を手放した。 一方、飛ばされた三木ヱ門も、呼びかける声に温もりを感じて目を開けた。 「潮江先輩――…よかった、無事だったんですね…」 文次郎の姿を認めると、安心したように微笑み、再び目を閉じる。 その姿を見て、文次郎は「必ず奴らに報いてやる」と誓い、帰路についたのだった。 第五章 文次郎は伊作にここまでのいきさつを語った。 敵との戦い、敵の真の目的が「忍者のせん滅」にあるということ。 そして追い詰められ、崖から落ちかけた時 川の増水で九死に一生を得たこと。 そこに、敵の本拠地に偵察に行った仙蔵と長次が帰ってきた。 二人はそこでタソガレドキ忍組に会い、共同戦線を持ちかけられる。 敵城の忍たちも、幻術にはかかっていないものの、主のためしぶしぶ従っている状態だった。 それぞれの役を決め、準備を整えて大きく動き出す忍術学園。 土井や山田、文次郎、留三郎、仙蔵、三郎などがそれぞれ見送られて敵城に赴いた。 図書委員として 学園の守りにつくことになった雷蔵は、強く強く祈る。 どうか、どうかみんな無事で――。 いよいよ敵味方の先発がぶつかる時がやってきた。 それを城壁の上から見つめる瞳がある。綾部だ。 罠作りの腕を見込まれて手元に置かれていた彼は、 忍術学園隊の先頭が罠に誘い込まれるのをじっと待っていた。 第六章 先発隊が城壁の前までたどり着く。 (――そろそろか。)綾部は城兵に指示し、罠の口をあけた。 文次郎たち精鋭の大部分が、あっと言う間に穴の底に吸い込まれていく。 しかしすぐに後発が現れる。急いで城兵が大砲を構え――鈍い音を立ててその場に伸びた。 綾部が殴ったのだ。すぐに兵たちが綾部に銃口を向けるが、 どこからともなく飛んできた たくさんの焙烙火矢に囲まれ、逃げまどい、吹っ飛んでいった。 「…遅かったですね。おかげで計画が狂いましたよ。せっかく操られたフリをしてきたのに――」 少し拗ねたように投げかける綾部に、仙蔵は笑って答えた。 「それはすまんな。おかげで私の計画は順調なようだ。」 綾部はますます口をとがらせた。 一方、落とし穴に落ちた文次郎たちは、隠し通路を通って城の内部に侵入していた。 襲い来る敵たちを交わしつつ仙蔵たちと合流、後から来る敵を任せて先へと進んだ。 その頃の忍術学園。 敵に備え、焔硝蔵を警備していた久々知の元には、 どうしても一緒に戦わせてほしいとタカ丸や虎若たちが駆け付けていた。 そして同じように用具倉庫を警備していた作兵衛たちの元では 長次や、三木ヱ門ら会計委員が守りを固めている。 息の詰まるような緊張に震え 思わずうつむく虎若を、心強い声が励ます。 「顔を上げるんだ若太夫――」 彼の師、照星。そして用具倉庫には利吉が、清八たち馬借の運んできた物資が、 城での戦いには与四郎たち風魔忍者や味方忍者が援軍として到着した。 一方 文次郎は、敵の総大将である城主や幻術遣いと対峙していた。 三木ヱ門たちのことを責める文次郎に、幻術遣いは「ただ雇われただけ」と返す。 ともすれば、この城主も幻術遣いに操られているのかもしれない。 そう思っていたが、どうやら違うようだ。城主は重々しく口を開いた。 「わしを裏切り、我が姫を無残に殺したあの忍が憎い――…」 第六章 仙蔵たちの元に援軍として来ていた大木雅之助は、彼らに昔話を語り始めた。 昔こんなことがあった。ある所に一人の忍がいた。彼は山彦の術を使い、ある城に潜入。 城主はまんまと術中にはまって味方の讒言も聞かず彼を重用し、姫の護衛につけた。 敵とはいえ、幼く無垢な姫にほだされる忍。しかしついに味方からの合図が。 忍は姫の命乞いをするつもりで城へ連れ帰ったが主は許さず、見せしめとして殺すよう命じた。 姫の処刑のあと、彼は自ら命を絶ち、大事な娘を殺された城主は、失意のまま城から逃げ落ちた。 仙蔵は眉をひそめ、綾部に語った。 「馬鹿な男だ。城に残しておけば家族と共に死ねたものを、余計な情をかけるからだ。 いいか。ここ一番で必要なのは情ではなく冷静な判断。そのために作法委員が居るのだ。」 そして。と文次郎は言った。 「敵の術も見抜けず易々と姫を預け、その責任を全部人になすりつけるてめえも馬鹿だ。」 もし本当に忍が人を騙す卑怯な存在だったとしても、それは人のために動く存在。 主のため、命をかけて人を欺き務めを果たす。強い信念を持っているのだ。 「俺は信じてる。俺自身も、俺を信じてくれる人も。だからてめえなんかに負けねえ。 すべて背負って、それでも立ち上がってやるさ!」 文次郎の一撃が決まる。城主は城の外へ落ちて行った。 多分あの城主の心は、姫を殺され城を落とされた日に死んでいたのだろう。 抜け殻になった男が最後に望んだのは何だったのか…。 ふと我に返ると、幻術遣いはいつの間にか消え、あたりは戦火に包まれていた。 外からは、幻術が解けたのだろう、困惑したような騒ぎが聞こえる。 すべての力を出し切った文次郎はその場にくずおれた。 それを、あとからやってきた留三郎が支える。 「ちょっと休んでろ。俺がちゃんと連れ出してやるから。そのためにここに居るから。」 その言葉を聞き、少し安心したように文次郎は息をついた。 終わったな。ああ、終わった。そう、やっとこれで。 「忍務、完了――」 by voskail | 2009-10-06 18:53 | 忍メモ
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もんじのこ
by voskail | ||||||